大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)14818号 判決

原告

豊田修三

株式会社テングヤ

右代表者代表取締役

越智教雄

原告

亡越智忠男承継人

越智教雄

越智忠昭

島嵜晧惠

有限会社エスポアたなか

右代表者代表取締役

田中延子

原告

田中靜子

上野精一

近藤太喜雄

右九名訴訟代理人弁護士

大浦浩

被告

ライオンズマンション板橋管理組合

右代表者理事長

安田豊

被告

行廣薫

右両名訴訟代理人弁護士

青木孝

小山晴樹

橋本栄三

鈴木研一

被告

西谷明

右訴訟代理人弁護士

新井悦郎

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  主位的請求

1  平成三年七月二一日開催の被告ライオンズマンション板橋管理組合(以下「被告管理組合」という。)臨時総会において、別紙議案目録記載の議案(以下「本件議案」という。)につき、過半数の賛成により、承認された旨の決議(以下「本件総会決議」という。)は、無効であることを確認する。

2  被告行廣薫(以下「被告行廣」という。)及び被告西谷明(以下「被告西谷」という。)は、各自原告らに対し、金二一八五万六九四二円及びこれに対する平成三年一一月三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  予備的請求

被告行廣及び被告西谷は、各自、原告豊田修三に対し、金一九五万三二一八円、原告株式会社テングヤに対し、金一二六万一七一三円、原告越智教雄に対し、金六二万八四三六円、原告越智忠昭に対し、金六七万九七〇〇円、原告島嵜晧惠に対し、金三四万七三〇二円、原告有限会社エスポアたなかに対し、金一二一万九五六二円、原告田中靜子に対し、金八二万三三〇五円、原告上野精一に対し、金七七万四九八三円、原告近藤太喜雄に対し、金五六万三一八四円及びこれらに対する平成三年一一月三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、被告管理組合が、平成三年七月二一日の被告管理組合臨時総会(以下「本件臨時総会」という。)において、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)に外来者専用駐車場三台分を設置できなかったことに対する代償として訴外大京観光株式会社(以下「大京観光」という。)から受け取った補償金(以下「本件補償金」という。)残金二一八五万六九四二円の帰属を、被告管理組合の組合員から原告らを除く本件建物の区分所有者によって構成される購入者の会に変更すると決議したのは、原告らの同意なくして、原告らを含む本件建物の区分所有者全員に帰属する総有財産を処分するものであるから、右決議は無効であるとして、主位的に、①被告管理組合に対し、本件総会決議は無効であることの確認を求めるとともに(主位的請求1)、②無効な総会決議を前提に被告管理組合理事長である被告行廣が、本件補償金残金を被告西谷に支払った行為は、被告管理組合による原告らに対する不法行為を構成し、また、右支払いは、被告行廣及び被告西谷が通謀のうえ行ったものであるから、被告管理組合は、同人らに対し不当利得返還請求権ないし不法行為による損害賠償請求権を有するとして、原告らの被告管理組合に対する右損害賠償請求権を基本債権とし、被告管理組合の被告行廣及び被告西谷に対する不当利得返還請求権ないし不法行為による損害賠償請求権を債権者代位権に基づき代位行使して、同人らに対し、本件補償金残金と同額の金員の支払いを求め(主位的請求2)、予備的に、③仮に本件総会決議が有効であるとすれば、原告らは、被告管理組合に対して、それぞれ別紙原告らの室別専有面積表記載の持分の割合(以下「原告らの持分割合」という。)に従った分割金請求権を有するとして、右分割金請求権を基本債権とし、被告管理組合の被告行廣及び被告西谷に対する前記不当利得返還請求権を債権者代位権に基づき代位行使して、同人らに対し、予備的請求記載の各金員の支払いを求め(予備的請求1)、更に、④無効な総会決議を前提とした被告行廣及び被告西谷による本件補償金残金の支払いは、原告らに対する不法行為を構成するとして、右被告両名に対し、予備的請求記載の各損害賠償金の支払いを求めた(予備的請求2)事案である。

二  本件紛争の基礎をなす事実関係

1  被告管理組合は、本件建物につき、建物の区分所有等に関する法律に基づいて定められたライオンズマンション板橋管理規約(以下「管理規約」という。)による管理組合であり、権利能力なき社団である。原告ら、被告行廣及び被告西谷は、いずれも本件建物の区分所有者であって、被告管理組合の組合員である。被告行廣は、昭和六三年四月から平成三年三月まで、被告管理組合の理事長であり、その後も新役員が選任される同年九月まで、管理規約に基づき理事長の職務を行った(いずれも当事者間に争いがない。)。

2  本件建物には、外来者専用駐車場を四台分設置すべきものであるが、現在、本件建物の地下駐車場二一台分のうち、二〇台分が個人の専有部分となっていて、外来者専用駐車場が三台分確保できない状況にある(甲第三号証の一、第一一号証、乙第二、第三号証)。

3  大京観光は、平成元年九月一三日、被告行廣に対し、右外来者専用駐車場三台分を確保できなかったことに対する代償として、本件補償金三〇〇〇万円を支払った(当事者間に争いがない。)。

4  本件臨時総会にあたって、大京観光から本件建物の区分所有権の分譲販売を受けた購入者らは(以下「購入者ら」という。)、本件補償金残金を被告管理組合から購入者らの名義に変更するという目的のもとに、被告西谷を代表者として購入者の会を結成し(これが権利能力なき社団と認められるかどうかについては後述する。)、本件臨時総会における本件補償金残金の取扱いを、被告西谷に一任するものとした(丙第二ないし第四号証、第五号証の一ないし四五)。

5  被告管理組合は、本件臨時総会において、本件議案につき、過半数の賛成により、承認する旨の決議をした(当事者間に争いがない。)。

6  原告らは、被告行廣及び被告西谷に対し、平成三年八月九日、本件補償金残金の支払い及び配分をしないように警告したが、被告行廣は、同年九月一〇日、本件総会決議に基づき、本件補償金残金二一八五万六九四二円を被告西谷に支払った(いずれも当事者間に争いがない。)。

三  争点

1  本件補償金は、被告管理組合に帰属し、原告らを含む本件建物の区分所有者全員の総有財産となるものであるかどうか(主位的請求1、2及び予備的請求1、2)。

(原告らの主張)

(一) 本件補償金は、本件建物には板橋区中高層住宅団地建設等指導要綱に基づく板橋区と株式会社トーメンハウジング(以下「トーメン」という。)との覚書により、外来者専用駐車場を四台分設置すべきものとされ、また、管理規約及び重要事項説明書にもその旨が明記されているにもかかわらず、実際には右外来者専用駐車場が三台分存在しないことに対する代償として大京観光から支払われたものである。

(二) 外来者専用駐車場の問題についての大京観光との交渉は、第一回臨時総会時から本件補償金の支払いによる解決まで一貫して被告管理組合が行っており、その際、原告らと大京観光から分譲販売を受けた購入者らの区別はなく、また、「購入者の会」による交渉という事実は一切なかった。

(三) 本件補償金は、被告行廣が被告管理組合の理事長として、大京観光からその支払いを受けたものであり、その後の本件補償金の保管は、被告管理組合の特別会計においてなされていた。

(四) 本件補償金の一部は、管理組合総会の決議に基づき、防犯カメラの設置、駐輪場増設工事、オートロック設備及び衛星放送設備工事など区分所有者全員のために使用される設備設置のために使われた。

(五) 仮に本件建物に右覚書及び管理規約等記載のとおり外来者専用駐車場が存在した場合、原告らを含む本件建物の区分所有者全員が等しく使用できたはずである。

(六) 以上のような本件補償金の性格、その取得の経過、保管状況及び使用状況に照らせば、本件補償金は、被告管理組合に帰属するものであって、原告らを含む本件建物の区分所有者全員の総有となるものである。

(被告らの主張)

(一) 本件補償金は、原告らの主張のごとく本件建物に外来者専用駐車場がないことに対する代償であるが、大京観光が外来者専用駐車場を確保すべき義務を負っているのは、外来者専用駐車場が存在する旨を売買契約書及び重要事項説明書に明示して本件建物を分譲販売した購入者らに対してであるから、その義務違反に対する代償として支払われた本件補償金は、本件建物の分譲販売を受けた購入者らに帰属するものである。

(二) 被告管理組合の理事長であった被告行廣が、右補償金の支払い交渉を行ったのは、大京観光から分譲販売を受けた購入者が多数であり、そのすべてが組合員であることから、便宜上、管理組合の理事長が購入者らに代わって交渉するという形になったものに過ぎず、また、被告行廣が、本件補償金の支払いを受けたのも、購入者の会がその時点では成立していなかったために、管理組合の他に適切な受皿が存在していなかったからに過ぎない。そして、本件補償金を特別会計で別途保管していたのは、むしろ、被告管理組合の一般会計と区別した取り扱いというべきである。

(三) 確かに外来者専用駐車場が設置されていれば、原告らを含めた区分所有者全員が使用できるが、右は大京観光が購入者らに対して負っている義務を、区分所有者全員が利用できる設備の設置という形で履行したことによる反射的利益に過ぎない。

(四) そもそも原告らは、板橋区との前記覚書においてトーメンと共に本件建物建設の共同事業主として外来者専用駐車場の設置を合意し、管理規約上も地下駐車場の区分所有者として外来者専用駐車場の設置義務を承認していたにもかかわらず、その義務を怠り、しかも、板橋区による本件建物の完了検査時にあった外来者専用駐車場の表示を撤去したうえ、地下駐車場を自己のために専有使用しているのであるから、本来、外来者専用駐車場を設置すべき責任を負うのは原告らである。

(五) 以上のように、大京観光から支払われた本件補償金は、大京観光から本件建物の分譲販売を受けた購入者らに帰属するものであって、被告管理組合に帰属するものではないから、原告らを含む本件建物の区分所有者全員の総有となるものではない。

2  本件総会決議は、原告らを含む区分所有者全員の総有となっている本件補償金を、原告らの同意なしに処分するものとして、無効となるかどうか(主位的請求1、2及び予備的請求2)。

(原告らの主張)

本件総会決議は、本件補償金の帰属を被告管理組合から「購入者の会」に変更するものであって、総有財産の廃止と実質的に同一であり、原告を含む区分所有者全員の同意が必要であるから、これを過半数の賛成によって決定した本件総会決議は、原告らの本件補償金についての固有権を一方的に剥奪するもので無効である。

(被告管理組合及び被告行廣の主張)

本件総会決議は、前記のとおり本件補償金が管理組合ではなく、購入者らに帰属することを確認したものに過ぎず、原告らを含む区分所有者全員の総有的に帰属する財産を処分するものではないから、原告らの同意は不要である。また、本件総会決議は、管理規約四〇条一項に従って招集され、法定の定足数を満たしたうえ、出席議決権数八二〇のうち、過半数四五二の賛成をもって可決承認されたものであり、手続上も何ら瑕疵はない。

(被告西谷の主張)

本件補償金は、前記のとおり原告らも含む区分所有者全員の総有となるものではなく、購入者ら全員のもので、後には購入者の会のものとなったものであり、被告管理組合に預託されていた間の法的関係は消費寄託と理解されるべきものである。よって、その処分は、被告管理組合の組合員多数による通常の決議によるべきであり、本件総会決議には何ら瑕疵はない。

なお、右購入者の会は、購入者らの入居とともに潜在的に成立し、大京観光の外来者専用駐車場提供義務不履行に対する購入者らの不満が高まるにつれて次第にその存在が顕在化、明確化したものである。平成元年九月に大京観光が右義務不履行の補償として本件補償金を支払った時には、購入者の会は構成員と実体はあるものの社団として形成途上であり、代表者、財産管理などの点において権利能力なき社団として不十分であったために被告管理組合がこれに代わって本件補償金を預かったのである。その後、平成三年六月三〇日、構成員をライオンズマンション板橋購入者(当然原告らは入らない。)、代表者ないし代理人を被告西谷とし、その運営は、総会を最高の意思決定機関とし、総会は必要があるとき、その構成員または代表者被告西谷が招集して開催する、財産管理は、購入者の会名義の預金口座を開設して管理し、その出納報告は、被告西谷が当面これにあたるものと定めて、購入者の会が成立した。そして、前記のとおり潜在的に成立した購入者の会と右購入者の会は実質的に同一である。

3  被告管理組合理事長の被告行廣が、本件総会決議に基づき、本件補償金残金を被告西谷に支払った行為が、被告管理組合の原告らに対する不法行為を構成するかどうか(主位的請求2)。

(原告らの主張)

被告管理組合理事長の被告行廣が、平成三年九月一〇日、本件補償金残金を被告西谷に支払ったことにより、原告らは、本件補償金が本件建物の区分所有者全員のための設備の設置に使用されていればその設備から受けられたであろう利益をすべて得られなくなり、本件補償金残金に対して有していた総有的権利をすべて喪失し、その結果、原告らは、本件補償金残金相当額の損害を受けた。そして、被告行廣は、本件総会決議後の平成三年八月九日に本件補償金の支払いをしないよう原告らから警告を受けながら敢えて支払ったのであるから、その故意ないし少なくとも過失に基づくことは明らかである。したがって、原告らは、被告管理組合に対し、本件補償金残金二一八五万六九四二円と同額の不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。

(被告行廣の主張)

被告行廣は、本件総会決議に従って支払ったものであり、前記のとおり本件総会決議は有効であるから、被告行廣の行為に違法性はない。

(被告西谷の主張)

本件補償金残金の支払いは、消費寄託の預かり金返還の性質を有するものであり、組合員多数による決議は有効であるので、違法性がない。

仮に、原告らに損害が生じているとしても、その損害は、原告らの持分割合に応じた額を超えるものではない。

4  被告管理組合理事長の被告行廣が、本件総会決議に基づき、本件補償金残金を被告西谷に支払った行為によって、被告行廣及び被告西谷が不当利得したかどうか(主位的請求2)。

(原告らの主張)

被告行廣による本件補償金残金の支払いは、前記のとおり無効な総会決議を前提とするものであって、法律上の原因を欠くものであり、また、被告行廣及び被告西谷は、本件議案を通謀して提案したものであるから、右被告両名は本件補償金残金を実質的に受領したものである。

したがって、被告管理組合は、被告行廣及び被告西谷に対し、本件補償金残金二一八五万六九四二円と同額の不当利得返還請求権を有している。

(被告行廣の主張)

本件総会決議は、前記のとおり有効である。また、被告行廣は、本件補償金の支払いを受けていない。したがって、いずれにせよ、被告行廣に対する不当利得返還請求権は成立しない。

(被告西谷の主張)

本件総会決議は、前記のとおり有効である。また、被告西谷は、前記購入者の会の代表として、本件補償金の支払いを受けたものであり、被告西谷個人としては、本件補償金の支払いを受けていない。したがって、いずれにせよ、被告西谷個人に対する不当利得返還請求権は成立しない。

5  被告行廣が、本件総会決議に基づき、本件補償金残金を被告西谷に支払った行為が、被告行廣及び被告西谷の被告管理組合に対する不法行為を構成するかどうか(主位的請求2)。

(原告らの主張)

被告行廣による本件補償金残金の支払いは、前記のとおり無効な総会決議を前提とするものであり、被告行廣及び被告西谷は、原告らから、前記のとおりの警告を受けながら敢えて、通謀のうえ支払ったのであるから、その故意ないし少なくとも過失に基づくものであることは明らかである。そして、右支払いにより、被告管理組合は、本件補償金残金と同額の損害を受けたから、被告行廣及び被告西谷に対し、右と同額の不法行為に基づく損害賠償請求権を有している。

(被告らの主張)

本件総会決議は、前記のとおり有効である。その余の主張は、いずれも争う。

6  本件補償金残金の支払い後の管理組合の財産は、原告らに対する損害賠償金の支払いをするには不十分であるかどうか(主位的請求2)。

(原告らの主張)

被告管理組合の財産のうち、用途の定められていないものとしては、特別会計に計上されていた本件補償金残金のみであるから、これが支出されてしまった以上、被告組合は無資力である。

(被告西谷の主張)

仮に原告らに損害があるとしても、その損害は、前記のとおり原告らの持分割合に応じた額を超えるものではない。また、無資力であるかどうかの判断に、財産の使途、用途等を区別すべきではない。そうすると、被告管理組合の総資産は一四六八万五八一八円であって、原告らの損害額を上回っているから、被告管理組合は無資力ではない。

(被告行廣の主張)

争う。

7  原告らは、被告管理組合に対し、本件補償金残金について、原告らの持分割合に従った分割金請求権を有するかどうか(予備的請求1、2)。

(原告らの主張)

仮に、本件総会決議が、本件補償金残金につき総有の廃止を決議したものとして有効であったとしても、前記1のとおり本件補償金残金が管理組合に帰属するものである以上、すべての区分所有者の専有部分の床面積の割合によって分割すべきものであるから、原告らは、被告管理組合に対し、原告らの持分割合に従った分割金請求権を有する。

(被告らの主張)

本件総会決議は、前記のとおり総有の廃止を決議したものではない。したがって、原告らの持分割合に従った分割金請求権も成立の余地はない。

8  本件補償金残金の支払い後の被告管理組合の財産は、原告らに対する右分割金の支払いをするには不十分であるかどうか(予備的請求1)。

(原告らの主張)

6の主張と同じ。

(被告西谷の主張)

被告管理組合の総資産は一四六八万五八一八円であって、原告らの分割金請求権の総額を上回っているから、被告管理組合は無資力ではない。

(被告行廣の主張)

争う。

9  被告行廣が、本件総会決議に基づき、本件補償金残金を被告西谷に支払った行為は、被告行廣及び被告西谷の原告らに対する直接の不法行為を構成するかどうか(予備的請求2)。

(原告らの主張)

権利能力なき社団の構成員全員に総有的に帰属する権利について、その構成員のうちの一部の者が、団体の統制規範を無視し、自己の有する権限を超えて、使用収益したり、財産を一方的に自己の所有としたような場合には、団体自体が、その構成員に対し、侵害行為の停止及び損害賠償を請求しうることはいうまでもないが、右侵害行為によって、他の構成員もまた、固有の権利を侵害され、損害を被ることになるので、同様に侵害の停止及び損害賠償の請求をなしうると考えるべきである。

前記被告行廣及び被告西谷による本件補償金残金の支払いにより、原告らは、固有の権利である分割金請求権をすべて失い、同額の損害を受け、かつ、右支払いは、前記のとおり同人らの故意ないし少なくとも過失に基づくものであるから、原告らは、同人らに対し、同額の不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。

(被告らの主張)

前記のとおり本件総会決議は有効である。その余の主張については、いずれも争う。

第三  争点に対する判断

一  まず、争点1(本件補償金の帰属)の判断に必要な前提事実につき検討する。

甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一ないし三、第四ないし第八号証、第九号証の一、二、第一一号証、第一三ないし第一六号証、第三四ないし第四二号証、乙第一ないし第一〇号証、第一二、第一三号証、丙第二ないし第四号証、第五号証の一ないし四五、第一二号証及び原告豊田、同越智、同上野、被告行廣、同西谷の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  原告豊田、同テングヤ及び同田中は、いずれも本件建物建設予定地の土地所有者、その余の原告らは、いずれもその借地権者であったものであり、トーメンから、右敷地所有権あるいは借地権との等価交換によって、本件建物の区分所有権を取得した(原告越智教雄、同越智忠昭、同島嵜晧惠は、亡越智忠男〔平成四年九月五日死亡〕の区分所有権を同人らの協議による割合に従って相続した。)。

2  トーメンは、板橋区との間で、昭和六〇年四月二二日、板橋区中高層住宅団地建設等指導要綱に基づく覚書において、本件建物に、右覚書添付の図面記載のとおりの外来者専用駐車場を四台設置する旨合意した。

そして、原告らも、トーメンと共に右覚書に記名押印した。

3  ところが、トーメンは、いずれも同年六月二七日に締結した原告らとの右各等価交換契約において、本件建物の地下駐車場二一台分のうち、原告豊田、同テングヤ、同近藤、同上野及び亡越智忠男が各二台分、原告田中が八台分、訴外渡辺が一台分をそれぞれ専有部分として取得するとの約定をした。その後間もなく、本件建物建設事業の事業主が実質上トーメンから大京観光に変わり、昭和六二年三月五日付で大京観光が事業主に加わる旨の事業主変更届を提出し、同月九日板橋区長の了承を得た。原告豊田は、右のように大京観光が右事業に参加する旨を知らされ、本件建物の名称が「トーメンガーデニアハイツ」から「ライオンズマンション」となって、建物のグレードが下がるものと判断したことから、右事態に異論を唱え、その結果、トーメンから、昭和六〇年七月一七日、原告豊田に対し、更に一台分の地下駐車場を無償譲渡するものとし、その旨の念書の交付を受けた。

したがって、右時点において、既に、本件建物の地下駐車場二一台分のうち、二〇台分が個人の専有部分とされることとなった。

なお、残りの一台分についても、トーメンから訴外橋本昭男に譲渡され、結局、本件建物の地下駐車場は、すべてが個人の専有部分となった。

4  他方、本件建物の区分所有者約一〇〇名のうち、大京観光から本件建物の区分所有権の分譲販売を受けた購入者らは、原告ら及び訴外渡辺を除いた約九〇名である。

被告行廣及び被告西谷も、購入者らの一人であり、被告行廣は、昭和六〇年七月二二日、被告西谷は、昭和六一年ころ、それぞれ本件建物の区分所有権を大京観光から分譲販売を受けて取得した。

5  大京観光が、購入者らに対し、本件建物の区分所有権を分譲販売するにあたって用いた売買契約書の二四条(5)には「本物件建物内地下駐車場のうち4台分は来訪者専用となること」と、土地付区分建物重要事項説明書(1)二枚目※⑥には「駐車場区分所有者(賃貸人等も含む)は当該駐車場の駐車台数21台のうち、4台については外来者専用駐車場に供することを認めること」とそれぞれ記載され、また、右契約と同時に交付された本件建物の管理規約六六条四項⑥にも右重要事項説明書と同趣旨の記載があった。

購入者らは、これらに基づき、本件建物には外来者専用駐車場が四台設置されるとの説明を受けて本件建物の区分所有権の分譲販売契約を締結した。

6  本件建物は、昭和六二年三月に竣工完成し、同月一九日に板橋区の完了検査が行われ、同月二六日に検査済証が交付された。そして、右完了検査の際には、本件建物の地下駐車場には、外来者専用駐車場(四台分)部分の表示がなされていた。

7  本件建物の完成後、本件建物への入居が始まったが、右入居の際に、原告らは、専有部分の鍵等と共に右管理規約の交付を受け、その内容を遵守するとして、これに署名押印した。

8  ところが、同月二七日に本件建物の管理受託者である訴外大京管理株式会社(以下「大京管理」という。)が本件建物の引き渡しを受けて、管理業務を開始する段階において、本件建物の地下駐車場に外来者専用駐車場の表示がなく、これが存在しないことが明らかとなったので、大京管理は、大京観光に対し、概ね①現状として、管理規約に定める外来者専用駐車場四台は、地下駐車場から供することになっているが、右地下駐車場二一台のすべてが旧地権者の所有となっており又登記されているため、事実上「外来者専用駐車場」として使用できるか不明確で、管理規約と現状が一致していないこと、また、②経過として、同月二七日の引き渡しの際に「外来者専用駐車場」四台の区画の確認を大京管理の担当者より指摘したところ、トーメンの河村より「全て旧地権者の専有登記となっておりもし必要ならば賃貸で借りられるよう交渉する」との返答があったこと、しかし、管理規約上有料であるとは解釈できないとし、再度打ち合わせることとなり、同年四月二日に大京観光東京支店で、トーメン、大京観光、大京管理の担当者らで打ち合わせを行った結果、とりあえず大京観光で駐車場四台を確保することになったこと、大京管理としては、管理費から駐車場賃貸料の支出はできないこと、を内容とする確認要望書を送付した。

9  しかるに、トーメンは、本件建物の地下駐車場の持分につき、昭和六二年四月二三日から同年五月二九日にかけて全部トーメンから原告ら及び訴外渡辺、同橋本に対し共有持分の所有権移転登記を経由してしまった。

10  右の大京管理、大京観光からの問い合わせを受けて、トーメンは、原告テングヤ、亡越智、原告近藤及び訴外橋本から各一台分の合計四台分の駐車場につき、期間を六ヶ月とする賃貸借契約を締結した。

11  昭和六二年七月二七日、被告管理組合の第一回臨時総会が開かれ、大京管理の担当者から、外来者専用駐車場の件について、概ね①現在、本件建物の管理規約及び重要事項説明書に明記されている「外来駐車場四台分」が大京観光及びトーメンの打ち合わせミスにより存在していない、②大京管理では、竣工の際この件を指摘し、現在トーメンで四台分を所有者より賃貸借契約により六ヶ月だけ借りたとのことであるが、将来的に問題があるので、管理組合宛に文章で明確な回答を出すように連絡してある、③使用が可能となった時点で別途大京管理が組合員に連絡する、という説明がなされた。

12  昭和六三年九月二七日、被告管理組合の第二回定期総会が開かれ、大京管理の担当者から、外来者専用駐車場の件について、「(一)外来駐車場4台を買い戻すのは不可能であるが、1台のみ永続的に確保する、(二)残りの3台分については、代替え案として①衛星放送設備工事の無償工事(510万円)②エントランスにピンク電話の設置を無償で行うことで金銭的解決を図りたい。」との説明がなされた。

この件について、理事会での検討結果もふまえて審議したうえ、採決した結果、外来者専用駐車場は一台とし残り三台分は代替え案とすることについては可決されたものの、現在出されている代替え案については可否同数のため承認可決に至らず、第二期理事会で交渉、検討を加えることとなった。

また、右総会において、被告行廣が理事長に選任された。

13  平成元年三月一〇日、大京観光は、被告管理組合理事長行廣に対し、外来者専用駐車場の問題について、概ね次のような回答を行った。

(1) 規約・重要事項説明書・売買契約書に記載されている外来者専用駐車場四台について、竣工より平成元年二月末日に至っても記載どおりの利用ができない状況にあるところ、外来専用駐車場四台のうち、一台については、大京観光において買戻しの確約をとったので、被告管理組合において、名義の変更並びに共用部分としても登記することが可能である(回答書Ⅰ)。

(2) 残りの三台については、買戻しが困難であるため、代替え案を検討した結果、①衛星放送設備工事一式五一〇万円、②管理事務室前ピンク電話設置費用一式一〇万円、③地階駐輪場出入口傾斜の改修工事一式六六万円、④玄関扉自動扉設置工事一式(夜間ロック可能)二九一万円、⑤外階段二ヶ所出入口ホテル錠式アルミ扉設置工事一式一二七万円、⑥防犯カメラ(モニター録画式)設備設置一式三九八万円の合計一四〇二万円の工事を無償で実施することにより、外来駐車場三台が無償で使用できないことの責を大京観光が負わないこととしたい(回答書Ⅱ)。

(3) ①回答書Ⅱの代替え案の見積額を、現金で管理組合に支払いが可能であるかどうか②外来者専用駐車場四台をすべて買戻すことが可能かどうかの調査交渉をする件、の二点については、三月二五日までに回答するものとする(回答書Ⅲ)。

14  平成元年四月二三日、右大京観光からの回答を受けて、被告管理組合臨時総会が開催され、外来者専用駐車場の件は、土地建物重要事項説明書、売買契約書及び管理規約に明記されており、購入者にとっては外来者専用駐車場四台分については当然の権利であるとして、理事長行廣から「外来者専用駐車場の代償として、大京観光の提案の一四〇〇万円は少なすぎると思われ上積み交渉中である。補償総額を決定するには交渉過程において即決しなければならない部分もあるので、理事長に一任してもらいたい。右交渉には、理事長を含む複数の理事があたる。」という内容の提案がなされた。

右提案について質疑応答の後、全員賛成により補償金交渉を理事長に一任することが可決された。

15  右決議を受けて、被告行廣及び被告管理組合の副理事長の訴外唐木正隆が大京観光との交渉にあたった末、本件補償金の額を三〇〇〇万円とすることとなり、平成元年九月一三日、大京観光は、被告行廣に対し、本件補償金として三〇〇〇万円を支払い、被告行廣は、被告管理組合理事長名で領収書を発行した。

その後、本件補償金は、被告管理組合の特別会計において保管することとなったが、一般会計は、大京管理において管理しているのに対し、特別会計は、被告管理組合の理事長行廣が、銀行口座を設けて管理することとなっていた。

16  平成二年一月一四日、被告管理組合の平成元年度臨時総会が開かれ、①自動ドア取り付けの件(取り付け費用二一〇万円)②衛星放送受信設備設置の件(取り付け費用三八〇万円)の各議案が、その財源を地下駐車場に対する補償金の一部で施行することと併せて可決承認された。

17  平成三年五月一九日、被告管理組合の第四期臨時総会が開かれ、被告西谷から「本件補償金は、大京観光より購入した区分所有者に対する売買契約、土地付区分建物重要事項説明書及び管理規約違反の補償金と考えるべきであり、原告ら旧地権者には権利がないというべきであるから、補償金残金を大京より購入した区分所有者の名義に移管したい。」という提案がなされたが、質疑応答の結果、決議保留となり、後日再度審議することとなった。

18  被告西谷は、同年六月二五日ころ、購入者らに対し、同月三〇日に本件建物一階集会室において、本件補償金残金の取扱いについて話し合いを行う旨の通知をし、同日の話し合いの結果、本件補償金残金を被告管理組合から購入者らの名義に移すこと、被告西谷を購入者の会の代表とすること等が決められた。そして、被告西谷は、購入者の会代表として、購入者らに対し、各人が本件臨時総会に出席できない場合の被告西谷に対する委任状を送付し、四五名の購入者から委任状の交付を受けた。

19  平成三年七月二一日に開催された本件臨時総会において、本件議案が、出席議決権八二〇のうち、過半数の四五二議決権の賛成により承認されたため、被告行廣は、本件総会決議に基づき、同年九月一三日、被告西谷に対し、本件補償金残金を支払った。

二  右認定事実を前提に、争点1(本件補償金の帰属)について判断する(なお、被告西谷は、主位的請求1について確認の利益の存在を争う旨述べるが、本件総会決議が本件補償金支払いの根拠となっているから、確認の利益はあるとして差支えない。)。

1 前記一4、5、8、11ないし14の認定事実によれば、大京観光が本件補償金を支払った実質的な理由は、大京観光が、購入者らに対し、本件建物の区分所有権を分譲販売するにあたって用いた売買契約書、土地付区分建物重要事項説明書(1)の中に、本件建物には外来者専用駐車場が四台分設置されることを明示して、売買契約の内容としたにもかかわらず、本件建物内に外来者専用駐車場を三台分確保できなかったことに基づくものであると考えるのが相当であるから、本件補償金は、購入者らに対する義務違反の代償として、同人らに帰属するものというべきである。

2  これに対し、原告らは、本件補償金は、本件建物に外来者専用駐車場が三台分存在しないことに対する代償であるところ、大京観光は、被告管理組合に対し、外来者専用駐車場の確保に代わる代替え案として、前記一12、13のような原告らを含む区分所有者全員のための設備の無償工事を提示していたのであり、また、仮に外来者専用駐車場が存在していた場合には、原告らを含む本件建物の区分所有者全員が使用できたのであるから、これらが補償金という形で金銭に代わったとしても、右金銭は、当然右のような設備の設置費用として使われるものというべきであるから、本件補償金は、被告管理組合に帰属するものと主張する。

確かに、大京観光の提案は前記一12、13のとおりであり、また、仮に外来者専用駐車場が存在した場合には、原告らを含む本件建物の区分所有者全員が使用できることは当事者間に争いがない。

しかしながら、このような代替え案が提示されたのは、もともと外来者専用駐車場が本件建物の区分所有者全員の使用に供されるものであるという性格に基づくものであって、そもそも大京観光が、右のような代替え案の提示や本件補償金の支払いをしなければならない立場に立たされる根拠は、前記認定のとおり、あくまでも大京観光の購入者らに対する売買契約上の義務違反にあり、他方、原告らは、前記一1で認定したとおり、トーメンから等価交換契約により本件建物の区分所有権を取得したもので、購入者のように大京観光から分譲販売を受けたものではないのであるから(原告らは、トーメンは原告らに外来者専用駐車場の設置を約束し、大京観光が右トーメンの義務を引き継いだ旨主張し、これに副う供述〔原告上野八ないし一一項、三九ないし四一項〕もあるが、原告豊田の供述〔二一一ないし二一三項、二二七ないし二三〇項〕及び同越智の供述〔八六ないし八八、二〇四、二〇五、二七四項〕に照らして採用できない。)、大京観光がこのような代替え案を提示したからといって、本件補償金が、被告管理組合に帰属するというようにその性質を変じたものということはできない。

3  また、原告らは、本件補償金獲得の経過では、一貫して被告管理組合が大京との交渉を担当していたもので、その際、原告らと購入者らの区別はなかったし、また、現実に本件補償金を受け取ったのも被告管理組合の理事長であった被告行廣であって、その保管も被告管理組合の特別会計においてなされており、更には、本件補償金の一部が、被告管理組合の総会決議に基づいて全員のための設備に使用されていることを根拠に、本件補償金は、被告管理組合に帰属するものと主張する。

確かに、本件補償金獲得の経過は、前記一11から15のとおり形式的な交渉当事者は、被告管理組合と大京観光であり、また、本件補償金の一部が区分所有者全員のために使われたことも前記一16のとおりである。

しかしながら、多数にのぼる購入者各自と補償交渉を進めるのは、大京観光にとって、極めて煩雑であり、また、購入者らの立場に立っても、被告管理組合の構成員が、原告ら外一名を除いて、いずれも本件建物の区分所有権を大京観光から分譲販売を受けた購入者らであることからすれば、右交渉を購入者ら各人で行うのではなく、被告管理組合に、その交渉を代行してもらい、他の購入者と足並みを揃えるというのは、合理的かつ極めて自然な成り行きというべきである。また、本件補償金の一部が、原告らを含む区分所有者全員のための設備である自動ドアの取り付けや衛星放送受信設備の設置に使用されたことも、右のとおり被告管理組合の構成員の大部分が購入者らによって構成されていることからすれば、購入者らの意思に基づいて使用されたということができる。

そうすると、このような被告管理組合による交渉及びその使用という事情があったとしても、本件補償金の支払いの根拠が、大京観光の購入者らに対する義務違反に基づくものであるとの認定を左右するものではなく、したがって、本件補償金が被告管理組合に帰属するということはできない。

4  更に、原告らは、被告らの主張する購入者の会なる権利能力なき社団は実在しないから、本件補償金残金が購入者の会に帰属する余地はない旨主張する。

確かに、被告西谷が主張する平成三年六月三〇日の時点において、購入者ら全員を構成員とする購入者の会という恒常的な権利能力なき社団が成立したというには、その組織、運営に関する基本的な定めがないことなどの点において、いまだ不十分なところがあると言わざるを得ないが、前記一17で認定したとおり、右の時点より以前の同年五月一九日ころから、少なくとも購入者らと原告らとの間で、本件補償金残金の帰属をめぐる利害対立が生じているという実態があり、右の利害を共通する購入者らは、原告らとの関係で、本件補償金残金の預金名義を被告管理組合から購入者らに移すという目的をもって結束していたものであることが推認されるし、原告代理人が被告西谷に送付した警告書(丙第一一号証の一、二)及び購入者らに送付した「ライオンズマンション板橋購入者の会の皆様へ」と題する書面(丙第一三号証)によれば、原告らにおいても、購入者らが右のとおり結束していたことについての認識を有していたことが窺われるから、これを権利能力なき社団と認めるかどうかはともかく、購入者らは、本件補償金残金の預金名義を被告管理組合から購入者らに移すという目的をもって結束したうえで、被告西谷に対し、本件臨時総会における本件補償金の取り扱いを一任していたものということができ、これによって、被告西谷は、被告管理組合から本件補償金残金を受け取る権限を有していたものと解することができる。

そうすると、購入者の会が権利能力なき社団としていまだ成立していたとは認められないとしても、本件補償金残金が購入者らに帰属するという前記認定を左右するものではないというべきであるから、原告の主張は採用できない。

5  以上に加え、本件建物に外来者専用駐車場四台分を確保できないという事態に陥ったのは、前記一2、3及び9で認定したように、トーメンが板橋区との間で、本件建物には外来者専用駐車場四台分を確保すると約束しながら、右駐車場を確保するための特段の手立ても講じないまま、本件建物内の地下駐車場二一台分のすべてを原告ら外二名の専有部分として譲渡してしまったことに基づくものであり、原告らも、トーメンと板橋区との間の前記覚書に記名押印しており、また、将来の管理規約の締結を約束した等価交換契約に基づいて、管理規約に署名捺印することによって、外来者専用駐車場四台の供出義務に応じることを表明しているのであるから、この供出義務を拒否したうえで、更に本件補償金の配分を受け取るということになれば、言わば二重取りという結果になるから、原告らは、実質的にも本件補償金を受け取る資格はないというべきである。

6  これに対し、原告豊田らは、地下駐車場の各自の専有部分は、トーメンとの等価交換という有償契約に基づいて取得したものであること、右覚書については、自己の権利を保全する目的でトーメンに対する先行登記を拒否したことから、形式上事業主として名前が出てしまったため、本件建物の設計者である永山設計の担当者に言われるまま、多くの文書に押印したものの一つであって、その内容等は一切読まずに押印したものであること、また、管理規約についても、内容を良く読まずに署名押印したものであるから、外来者専用駐車場の供出義務を負うことはないと供述する。しかし、原告らは自らの土地所有権や借地権と本件建物の区分所有権を等価交換の目的としたものであり、その重要性に照らせば、原告らが本件建物の建築に関する書類及び管理規約の内容を全く読まずに右の各文書に押印あるいは署名押印したとはいささか考えがたく、また、有償で取得したという点についても、本件建物には構造上、地下駐車場は二一台分しか存在しないのであるから、外来者専用駐車場を四台分確保するためには、地下駐車場を個人の専有部分として使用している原告らが、有償か無償かはともかくとして、外来者専用駐車場を供出する立場とならざるを得ないものであって、これによって原告らが損害を被ったとすれば、それは、このような事態に陥る原因となった等価交換契約を結んだ当事者である原告らとトーメンとの間で処理すべき問題であるというべきである。したがって、原告らの右主張もまた採用できない。

7  以上によると、本件補償金は、購入者らに帰属するものというべきであって、被告管理組合に帰属するものとは認められないから、争点1についての原告らの主張を採用することはできない。

三  そして、その余の争点についての原告らの主張は、いずれも本件補償金が、被告管理組合に帰属し、原告らを含む区分所有者全員に総有的に帰属することを前提とするものであるから、すべて採用することができない。

四  以上によれば、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないから、これらをすべて棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官滿田明彦 裁判官沼田寛 裁判官野口宣大)

別紙

原告らの室別専有面積表

豊田修三

室番号

専有面積

室番号

専有面積

備考

801

60.77

814

22.49

駐車場の専有面積の計算式

総面積 218.42m2(乙第1号証)

台数 21台分

1台分の専有面積

218.42÷21=10.40m2

802

48.09

駐車場(3)

31.20

803

60.48

617.23

804

60.48

805

60.48

806

60.48

807

60.48

808

60.48

810

22.95

811

22.95

812

22.95

813

22.95

越智教雄

越智忠昭

島嵜晧恵

(株)テングヤ

室番号

専有面積

室番号

専有面積

室番号

専有面積

室番号

専有面積

1401

42.84

508

60.48

809

26.78

413

22.95

1302

122.86

507

60.48

305

60.48

414

22.49

314

22.49

412

22.95

213

22.49

311

22.95

駐車場(1)

10.40

304

60.48

109.75

312

22.95

198.59

駐車場(1)

10.40

313

22.95

214.79

204

124.47

211

22.95

103

116.20

駐車場(2)

20.80

398.71

(有)エスポアたなか

田中靜子

室番号

専有面積

室番号

専有面積

606

60.48

607

60.48

608

60.48

502

48.08

509

26.78

512

22.95

510

22.95

513

22.95

511

22.95

514

22.49

410

22.95

駐車場(8)

83.22

310

22.95

260.17

212

22.95

104

122.90

385.39

上野精一

近藤太喜雄

渡辺長義

室番号

専有面積

室番号

専有面積

室番号

専有面積

501

60.77

1202

49.08

205

55.62

206

60.48

703

58.30

101

53.14

207

59.09

102

49.79

駐車場(1)

10.40

105

43.76

駐車場(2)

20.80

119.16

駐車場(2)

20.80

177.97

244.90

別紙

原告以外の者の室別専有面積表

室番号

専有面積

室番号

専有面積

室番号

専有面積

室番号

専有面積

1301

67.89

1108

23.49

1010

22.95

910

22.95

1201

47.04

1109

23.49

1011

22.95

911

22.95

1203

29.82

1110

23.49

1012

22.49

912

22.95

1204

82.65

1001

60.76

901

60.76

913

22.95

1205

88.22

1002

48.08

902

48.08

914

22.49

1101

59.50

1003

61.96

903

54.79

701

60.76

1102

48.08

1004

61.96

904

47.80

702

48.08

1103

62.64

1005

61.96

905

52.95

704

62.65

1104

56.30

1006

61.96

906

52.95

705

60.48

1105

45.90

1007

26.77

097

47.80

706

60.48

1106

57.91

1008

22.95

908

54.79

707

56.98

1107

26.10

1009

22.95

909

26.77

708

63.97

小計

672.05

小計

499.82

小計

515.08

小計

527.69

室番号

専有面積

室番号

専有面積

室番号

専有面積

室番号

専有面積

709

26.77

610

22.95

404

60.48

308

63.97

710

22.95

611

22.95

405

60.48

309

26.77

711

22.95

612

22.95

406

60.48

201

60.76

712

22.95

613

22.95

407

56.98

202

48.08

713

22.95

614

22.49

408

63.97

203

60.48

714

22.49

503

60.48

409

26.77

208

26.77

601

60.76

504

60.48

411

22.95

209

22.95

602

48.08

505

60.48

301

60.76

210

22.95

603

63.97

506

60.48

302

48.08

小計

332.73

604

56.98

401

60.76

303

60.48

合計

4,169.89

605

60.48

402

48.08

306

60.48

その他

(駐車場1台分)

10.4010

609

26.77

403

60.48

307

56.98

小計

458.10

小計

525.53

小計

638.89

総合計

4,180.2910

別紙

ライオンズマンション板橋の原告らの専有面積と金額配分表

氏名

専有面積

配分比率

配分金額

1

豊田修三

617.23

×3,164.49円

1,953,218円

2

越智教雄

198.59

628,436円

3

越智忠昭

214.79

679,700円

4

島嵜晧恵

109.75

347,302円

5

(株)テングヤ

398.71

1,261,713円

6

(有)エスポアたなか

385.39

1,219,562円

7

田中靜子

260.17

823,305円

8

上野精一

244.90

774,983円

9

近藤太喜雄

177.97

568,184円

10

渡辺長義

119.16

377,080円

訴取下

2,726.66

8,628,483円

11

被告ら、その他

4,180.2910

別紙議案目録

一 (株)大京から支払われた補償金は(株)大京から購入した者の権利である。

二 補償金預金分の名義を管理組合理事長から購入者の会に変更する。

三 補償金の受領者の名義を変更する。

四 既に共用部分の新規設備として使用された金額については、旧地権者に分担金は要求しないが、旧地権者より分担金支払いの希望があれば、受ける事はやぶさかではない。

別紙物件目録

所在 東京都板橋区板橋一丁目四九番地四、四九番地六

建物の番号 ライオンズマンション板橋

構造 鉄骨、鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付一四階建

床面積 一階 617.67平方メートル

二階 646.52平方メートル

三階ないし七階 653.27平方メートル

八階 649.92平方メートル

九階 600.94平方メートル

一〇階 538.25平方メートル

一一階 468.95平方メートル

一二階 307.27平方メートル

一三階 201.35平方メートル

一四階 52.65平方メートル

地下一階 591.49平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例